名古屋に残る和晒とは?100年近く受け継がれる伝統技法と平野晒工場のものづくり
私たちが日常で使う手ぬぐいやガーゼ、浴衣、ベビー用品。そのやわらかな肌触りや美しい染め上がりを支えているのが、「晒(さらし)」という加工です。
なかでも、生地を大きな釜でじっくり炊き、太陽と風の力で乾かす昔ながらの「和晒(わざらし)」は、現在では全国でも受け継ぐ工場が少なくなりました。
名古屋市北区にある創業1927年の平野晒工場は、この和晒の技法を約100年にわたり守り続けてきた工場のひとつです。

今回は、和晒とはどのような加工なのか、洋晒との違い、実際の製造工程、そして地域に受け継がれてきたものづくりについて紹介します。
晒(さらし)とは?布づくりに欠かせない下地づくり
綿花から製品になるまでには、いくつもの工程があります。ざっくりいうと、
綿花→紡績→織物(生機)→晒加工→染色→縫製→製品
織り上がったばかりの布(生機・キバタ)には、織る際に使われた糊や油分、綿花由来の不純物などが残っています。
晒とは、それらを取り除き、布本来の吸水性ややわらかさを引き出す工程です。
たとえるなら、化粧前のスキンケアや、ヘアカラー前のブリーチのようなもの。
染料が美しく入り、製品として本来の性能を発揮するための「土台づくり」といえるでしょう。
和晒と洋晒の違い
現在主流となっているのは「洋晒」です。
一方、平野晒工場では、生機を釜で炊き、天日干しする昔ながらの方法を「和晒」と呼んでいます。
両者の違いは、加工方法だけではありません。
和晒
和晒では、生地に必要以上の力をかけません。
じっくり時間をかけて炊き、水洗いし、天日で乾燥させるため、綿繊維は本来の丸みに近い状態を保ちます。
その結果、
・空気を含んだようなやわらかさ
・優れた吸水性
・染料が繊維の奥まで浸透しやすい
という特徴が生まれます。
注染や有松絞りなど、日本の伝統的な染色技法とも相性が良く、にじみやぼかし、深みのある色合いを表現できることから、多くの職人に選ばれています。
完成までには、最短でも4日ほどかかります。
洋晒
洋晒は、自動精練機を使って大量の布を短時間で加工する方法です。
ローラーで圧力をかけながら処理するため、生産効率が高く、現在では最も一般的な加工方法となっています。
加工時間は最短40分ほど。
布の表面が均一になり、プリント加工との相性にも優れています。
大量生産に向く一方で、和晒とは異なる風合いになることが特徴です。
加工前と加工後では、布はここまで変わる
実際に加工前後の布を見比べると、その違いは一目瞭然でした。
加工前の生機は、生成り色でやや硬く、ごわついた手触りです。
表面には綿花由来の細かな不純物も残っています。

一方、和晒を終えた布は自然な白さになり、ふんわりと空気を含んだような質感へと変化します。
霧吹きで水をかけると、その違いはさらに明確です。
加工前の布は水を弾きますが、加工後の布は水滴をすっと吸い込みました。
この吸水性の高さこそ、和晒がガーゼや手ぬぐい、赤ちゃん用品などに選ばれる理由のひとつです。

和晒加工はどのように行われるのか
工場では、生地がゆっくり時間をかけながら姿を変えていきます。
効率を求めるのではなく、素材そのものを大切に扱う工程が続きます。
① 釜炊き

まず、生地を大きな釜へ丁寧に積み重ねます。
満水時には約8トンもの水が入る釜を使い、地下30メートルから汲み上げた地下水を軟水器に通して使用します。
生地の種類や厚みによって、水の量や炊き時間は毎回変わるため、この工程は職人の経験が大きくものをいいます。
品質を左右する、最も重要な工程のひとつです。
② 洗浄

釜炊きを終えた布は、何度も水洗いを繰り返します。
洋晒では機械が布を運びますが、和晒では人が水と布を動かします。
薬剤や不純物をしっかり取り除くことで、綿本来の自然な白さが現れます。
筆者も釜から出したばかりの布を持たせてもらいましたが、水をたっぷり含んだ布は想像以上の重さでした。
体力と経験、その両方が求められる仕事です。

③ 脱水
洗浄後は遠心分離機で脱水します。
ここでも熱を加えず、余計な負荷をかけないことが大切です。
布が持つやわらかさを損なわないよう、工程のひとつひとつが慎重に進められていきます。

④ 天日干し
平野晒工場を訪れて最も印象に残ったのが、この天日干しの風景でした。
高さ約7メートルの建屋いっぱいに布が掛けられ、太陽の光と風を受けながらゆっくり乾いていきます。

工場の中を見上げると、白い布が幾重にも揺れ、その光景はまるで白いオーロラのようでした。
乾燥した布を引き下ろすときには、「シュッシュッ」と心地よい音が工場内に響きます。
四日間かけて丁寧に仕上げられた布は、このあと染色工場へ渡り、有松絞りや手ぬぐい、浴衣など、さまざまな製品へと生まれ変わります。
後編では「なぜ和晒が選ばれるのか」「5代目の想い」「地域文化としての価値」「未来への挑戦」に迫ります。
後編に続く→

【取材協力】2025年春ごろ取材させていただきました。
社名 有限会社 平野晒工場
住所 名古屋市北区福徳町7丁目100
電話 052-981-3649
ホームページ
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こちらの記事は過去に地域クリエイターとしてYahoo!ニュースエキスパートへ寄稿した取材記事を、地元の方向けに再編集したものです。
