路地裏にひっそり佇む老舗の和菓子店。そこには、どこか懐かしくてやさしい甘みがありました――。
今回訪れたのは、西区・浄心『餅秀(もちひで)』。創業98年、地元の人に長く愛され続けています。
老舗なのに、やわらかい空気
弁天通商店街の一本裏通りで、団子の描かれたのれんがふと目に留まります。
戸を開けると、陳列台にはおはぎや草餅、わらび餅など、手づくりの和菓子がずらり。
どれも素朴で、丁寧に作られたことが伝わるようなやさしい表情をしています。

スタッフの方々はとても気さくで、老舗にありがちな堅苦しさは一切ありません。
「鬼まんじゅうありますよ」と明るく声をかけてくれる、そのひとことに心がふっとほどけました。
かつては弁天通商店街沿いに店を構えていましたが、数年前に現在の場所へ移転。
通りから少し奥まった静かな場所ながら、季節の和菓子を求めて今も常連さんや近所の方々が足繁く訪れています。

香ばしい香りに誘われて。浄心名物「みたらし団子」

『餅秀』の人気商品の一つが、注文を受けてから焼き上げる「みたらし団子」。
たまり醤油を使った香ばしいタレの香りが店内いっぱいに広がり、鼻腔をくすぐります。
団子づくりには、昔ながらの「球断器(きゅうだんき)」という道具が使われています。
木の板に丸い溝が彫られた型の上で生地を転がし、均一な大きさと形に仕上げる伝統的な方法。
そして一本ずつ手作業で串を刺すため、中央に小さなくぼみが生まれます。
そのわずかな“いびつさ”が、むしろ素朴でいとおしく、『餅秀』のみたらし団子らしい温もりを感じさせます。
お団子を包むスタッフの手元を眺めながら、焼きあがりを待つ時間もまた小さな楽しみ。
そんな「人とお菓子の距離の近さ」も、『餅秀』らしい魅力です。

焼きたてのお団子は、外はパリッと香ばしく、中はもちもち。
歯切れのよいおもちに絡むのは、餅秀特製のたまり醤油ダレ。
焦げ目のついた表面にとろりと塗られたタレは、香ばしくてどこか懐かしい味わいです。
噛むほどに、醤油のコクとおもちの甘みが混ざり合い、素朴ながらも深い余韻を残します。
秋の香りをほおばる「鬼まんじゅう」
もう一つの名物といえば「鬼まんじゅう」。名古屋の秋の風物詩ですよね。
角切りにしたサツマイモを小麦粉と砂糖でまとめて蒸した、愛知の郷土菓子です。

『餅秀』の鬼まんじゅうは、黄金色のサツマイモが透けるようなつややかな蒸し上がり。見た目からすでに“おいしい予感”が漂います。
食べる前に少し温めると、湯気とともに立ち上る甘い香りがたまりませんよ。
口に運ぶと、もちっとした生地と、ほっくりとしたサツマイモの甘みが口いっぱいに広がり、思わず「これこれ」とうなずいてしまいました。
甘さは控えめで、素材そのものの風味がじんわり広がります。
まるで蒸したてのサツマイモを頬張っているような、自然で素直な味わいです。
人気商品のため、午前中で売り切れてしまうこともしばしば。確実に手に入れたい方は、電話での予約がおすすめです。
まちの人が集う「弁天マルシェ」
『餅秀』がある浄心エリアでは、毎月3日と第3土曜日に「弁天マルシェ」が開催されています。
弁天通商店街を中心に、周辺のお店が協力して行う地元イベントで、この日は『餅秀』でもおこわやお赤飯、鬼まんじゅうなど一部商品が特別価格に。(日程は餅秀Instagramでも告知されています。)
顔なじみのお客さん同士が挨拶を交わす光景も、どこか温かくていいですよね。
まちの甘味が、日々をやさしくしてくれる
季節が巡るたびに思い出す味――。
そんな“まちの和菓子”があるって、ちょっと幸せなことですよね。
西区浄心の『餅秀』、ぜひ一度訪れてみてください。
きっとあなたの「お気に入りの店」のひとつになるはずです。
【店舗情報】
店名:餅秀(もちひで)
住所:名古屋市西区上名古屋2-3-19
電話番号:052-531-1788
営業時間:10:00〜17:00
定休日:月曜・火曜(変更の可能性あり。公式Instagramをご確認ください)