夏の夕暮れ、名古屋市北区・柳原通商店街の空気がいつもと違う。
普段は静かに時が流れるこの通りが、8月第一火曜・水曜の二日間だけは、一年で最もにぎわう特別な場所になる。
周辺道路は封鎖され、金城橋から柳原一交差点まで、約600メートルが歩行者天国に。
「第72回 柳原通商店街夏祭り」では、通りの両側に屋台やキッチンカーがずらりと並び、ざわざわとした人の声、香ばしいポテトや焼きそばの匂いが漂っていた。

■ 子どもたちの笑顔が戻る夏の夕暮れ
浴衣姿の女の子たちがチョコバナナを片手に歩き、甚平姿の男の子がサメ釣りで景品をねらう。
何のことはない、さかな釣りの要領でくじ引きするようなものだが、その真剣な表情に見ている大人まで笑顔になる。
夏の夕暮れのオレンジ色の空と、アスファルトに反射する提灯の光。その光景に、どこか懐かしいノスタルジーを感じた。
この日の柳原通商店街は、人、人、人。
「賑やかな柳原通はやっぱりええなぁ」と、お孫さんを連れたおじいちゃんが目を細めていた。

■ “まちのステージ”が生まれた夜
今年はステージイベントや路上パフォーマンスがさらに充実したようだ。
夏まつり初日、北ステージでパフォーマンスの先陣を切ったのが、名古屋ダイヤモンドドルフィンズの公式チアリーダー「ダイヤモンドルージュ」。華やかなダンスで、通りがいっせいに湧いた。
この他にもバルーンアートや大道芸、弾き語り、音楽ライブなど目白押しだった。


中でもひと際注目を集めたのが、名古屋が誇る人間観光地「サックス侍」。
「音だけでも癒されるけど、やっぱり演奏している姿を見たい!」と、観客の輪が二重、三重、いや五重にも広がる。
夕暮れ時の商店街の背景にミライタワーがうっすらと浮かび、サックスの柔らかな音色が響き渡った。

■ 屋台にキッチンカー、商店街グルメも
お祭りといえば、屋台めぐりもお楽しみ。
たこ焼き、からあげ、かき氷…。今年5月に柳原通商店街へ移転してきた名古屋風のたこ焼き「 るんるん」にも長い行列が。
できたてを受け取ったお客さんから「熱っつ!旨っ!」といった声や笑顔が絶えない。

■ 未来へ向けた一歩
商店街の関係者によると、今年は外部からアドバイザーを招き、より楽しめるイベントづくりに挑戦したそうだ。
「若い世代にもっと知ってもらって、昔のような賑わいを取り戻したい」と語るその言葉には、まちへの深い愛情がにじむ。
かつて「大須商店街と並ぶほどの人通り」と言われた柳原通商店街。地下鉄開通で人の流れが変わり、シャッターが増えていった時期を乗り越えて、いま再び、まちの温度が上がりはじめている。
この夏、IGアリーナのオープンで周辺エリアの注目度も高まるなか、新しいお店が少しずつ増え、歩くたびに“懐かしさと新しさ”が同居する風景が広がっているのだ。
■ おわりに ― ふたたび灯る「まちの灯り」

祭りの終盤、子どもたちの笑い声が夜風に溶けていく。
屋台の照明が少しづつ消え、静けさを取り戻す。
その中を、浴衣の裾をひるがえしながら帰っていく親子連れの後ろ姿が印象的だった。
かつてはシャッターが並ぶ通りだったこの場所に、また人の声と笑顔が戻ってきた。
夏祭りは、単なるイベントではなく、まちの心に火を灯す夜。
ノスタルジックで、あたたかい、柳原通商店街の夏は、来年、そしてその先へと続いていく。
第72回 柳原通商店街夏祭り ※こちらのイベントは終了しました
開催日:令和7年8月5日(火)・6日(水)
時間:18:00~21:00
会場:柳原通商店街(名古屋市北区・金城橋~柳原一交差点)
主催:柳原通商店街振興組合